【インタビュー】パナソニックCHROに聞く仕事と介護の両立、ビジネスケアラーの課題を経営層はどう考えるのか
仕事と介護の両立支援に取り組む、リクシス/チェンジウェーブグループでは、
企業横断でこの課題に取り組むコンソーシアム「Excellent Care Company Club(エクセレント・ケア・カンパニー・クラブ、以下ECCクラブ)」の企画・運営を務めています。
今期のECCクラブには企業14社が参加し、2024年10月15日にはビジネスケアラーカンファレンスを開催しました。
320名を超える方が参加してくださったカンファレンスでは、4つの分科会に分かれた参加メンバーが、
- 「ロールストーリー」という新手法の活用
- 「仕事と介護の両立コミュニティ」設計・運営のコツ
- 経営層と共に取り組むためのヒント
- 職場の理解とコミュニケーションを向上させるために役立つツール活用のポイント
というテーマで発表を行い、現場の実践に大変役立つ内容であった、と大きな反響をいただいています。
発表の中で、第3分科会では、パナソニック株式会社の取締役常務執行役員、CHROである加藤直浩さんにインタビューを行い、経営視点での大きなヒントを得られたとコメント。経営層のコミットメントは取り組みに不可欠であるとし、経営層と担当部門が対話する際にはどんな情報が必要なのか、3つのstepと具体的な対応を提案。大きなインパクトを残しました。
ビジネスケアラーカンファレンスでも、「経営層と担当部門がどのようにこの課題に取り組むのか」「仕事と介護の両立支援にとどまらず、広くDE&I、人材戦略も含めた課題として進めたい」という声は参加者から多く寄せられました。
このため、ECCクラブ事務局では改めて加藤さんにインタビューを依頼。快くお引き受けくださいました。本記事では、そのインタビューの様子をお伝えします。
聞き手はチェンジウェーブグループ代表取締役の佐々木裕子です。
加藤直浩さん
パナソニック株式会社取締役 常務執行役員 チーフ・ヒューマンリソース・オフィサー(CHRO)
パナソニック入社後、一貫して人事領域に携わる。組織変革、タレントマネジメントの仕組み構築、報酬制度や拠点改革などを担当。1999年に欧州勤務を経験、2010年にオートモーティブ事業部門の人事部長。2013年に北米本社の人事担当役員として世界最大級の車載電池工場の立ち上げを担当。2017年インダストリー事業部門、2019年オートモーティブ事業部門のHRヘッドを経て、2022年4月より現職。
経営戦略の本質であることを伝え続け、変化を生む
佐々木:
「Excellent Care Company Club(ECCクラブ)」主催・ビジネスケアラーカンファレンスの発表で、加藤さんと第3分科会のメンバーがディスカッションされた内容を伺いました。
「仕事と介護の両立」について、経営層がどのように課題感を持ち、コミットされていくのか、気づきの多い発表で大変勉強になりました。
まずはお礼申し上げます。
加藤様:
いま、仕事と介護の両立という課題に直面すると誰もが感じていると思います。私自身にとっても、改めて考える機会になりました。ビジネスケアラー課題含めDE&I、人事施策について、経営層に対して状況をシェアし続けることは大変重要だと思っています。
佐々木:
現在、DE&I視点では、どのような課題を感じていらっしゃるのでしょうか。
加藤様:
当社役員の多様性(女性、外国籍、キャリア採用等)の割合が大変低く、その下の層もほとんどが日本人、男性です。
同じ価値観とキャリアを持った人がツーカーで話す方が短期的には楽ですが、中長期的に考えるとそれでは絶対に生き残れない。その危機感も含めて、どう伝えていけばいいかというのが課題ですね。
そういう意味で、経営の意思決定において多様性は必要だと感じており、DE&Iは生き残り戦略、経営戦略の本質であるということをどこまで経営層が納得するのかがポイントだと思っています。
佐々木:
加藤さんの仰る通りですね。それにはエビデンスもあります。アメリカの研究ですが、同質性が高いチームは大きな変革は起きにくいけれど、平均点は高いという結果があります。一方で、多様なチームは、大きなイノベーションを起こしているけれど、失敗も多い。平均では同質性が高いチームの方が上というように見えますが、この変化の時代に、果たして事業の発展につながるのはどちらなのか、という話です。
また、脳の認知の仕組みとしても、同質なものを好む、という特性があります。多様な人がいると、説明責任も生じますし、面倒くさいと感じることがあるかもしれません。
加藤様:
確かに、私も海外で勤務していた時は多様な人に囲まれていましたし、日々「君は何ができるんだ」と問われ続けていました。大変な毎日でしたが、そのうち、多様な人がいる方が楽しいと気づいたんです。しかも、世の中やお客様の変化は著しく、新たな価値を提供し続けなくてはいけない。
こう考えると、多様性はマストです。
佐々木:
人種や性別だけでなく、働き方でも、価値観でも良いのですが、加藤さんが経験されたような「やってみたらこっちのほうがいい」という体験、既成事実を作っていく必要がありますね。
全員が力を発揮できる環境づくりで魅力ある組織へ
加藤様:
私は、パナソニックをもっと元気にしたいと思っています。
女性でも、高齢者でも、介護中・育児中でも、どんな方でも、その人たちが持っている力を最大限発揮していただける会社でありたい。
健康経営・DEI推進メンバーの頑張りもあり、2024年には、健康経営優良法人~ホワイト500~に認定されましたが、より良く変わろうとしている、という意思は社外からも見てもらえているんじゃないでしょうか。
パナソニックグループとしても大学生の就職企業人気ランキング・理系総合で、今年は5位になりました。(前年は25位)
企業間でワークシェアリングをしたり、権限委譲や機会提供を進めたりして、力を引き出していく。そうやって総力戦で戦っていかないと、労働力不足の時代に会社が持ちません。
特に、今後の10年で本気で会社を変えるなら、数値目標の設定は必須だと考えています。
佐々木:
ここ1年ほど、経営者の多くが、そのことに気づかれてアクセルを踏まれているように感じますね。
ただ、数値目標と現状のギャップはそう簡単には埋まらないので、構造を本当にちゃんと「見える化」していかないと、変革は起こらない、というのも実情です。
DE&Iを経営層の「自分ごと」にするには
佐々木:
例えば、現在、日本の企業の49%くらいが50代で、その多くは介護を抱えています。意思決定層に女性を増やす、ということ1つとっても、対象となることの多い40代中盤から50代前半の方については育児と介護のダブルケアラーも多いです。
私も都内で子どもを育てながら、愛知県にいる母を介護しています。でも、帰省は数回しかしていません。実は、早めに知識をつけ、情報をしっかり持っていれば、育児も介護もチーム体制を組み、マネジメントできるのです。
また、弊社は経営層もメンバーも知識を持っていますし、キャリアとライフの両立は当たり前だと考えています。だからこそ、柔軟な対応ができ、キャリアを妨げることもありません。
加藤様:
素晴らしいですね。私自身、実家にいる親は介護が必要な状態で、定期的に手伝いに行ったり、経済的なサポートをしたりしていますが、一緒に暮らしている兄弟に頼る部分も多くありますから、介護との両立の大変さを本当に実感しているかというと、そうではないと思います。
佐々木:
ECCクラブのビジネスケアラーカンファレンスでも、経営層の意識がこの課題にまだ向けられていないという危機感が参加者アンケートで多く挙がっていました。
加藤様:
今の日本の経営者は育児も介護も本人ではない誰かが担っているケースが多いのかもしれませんね。そうすると両立の本当の難しさについて実感がないことが壁になります。人間は自分が体験したことしか、自分の言葉で語れません。先ほどお伝えした通り、介護や育児経験者も含めて、経営層の多様化を進めていく必要がありますね。
また、先日のECC分科会インタビューでお話したのですが、社員の声、現場の「困った」は本当に経営層を動かす力があります。経営層も生の声を聞きたがっています。
私自身も課題と感じることを伝え続け、学ぶ場づくりをしながら真に生き残り戦略となるDE&Iに取り組んでいこうと思っています。
佐々木:
今日は大変勉強になりました。ありがとうございました。
仕事と介護の両立支援に取り組むコンソーシアム ECCクラブ https://lyxis.com/ecc/
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