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リクシス 代表取締役社長CEOの佐々木裕子。セッションは、佐々木から仕事と介護の両立を支援するクラウド型サービス「LCAT」(Lyxis Care Assistant Tools)利用者のデータから見えてくる実態について紹介し、個別テーマを石原編集長と議論しつつ深掘りしていく形式で進めた。
2020年1月21日、リクシスでは大手企業人事部様を中心とした完全招待制のイベント『超高齢社会を生き抜くエイジングリテラシー〜1億総介護時代の企業人の在り方〜』を開催いたしました。このイベントは、エイジングリテラシーの重要性に焦点を当て、従業員の介護離職を防ぐために企業人事として何ができるのかを探ったものです。介護と仕事の両立についての最新の分析データや、在宅医療・遠隔医療の最前線などを紹介しながら、いくつかの観点から超高齢社会における企業人事のあるべき姿を浮き彫りにしました。
当日のイベントでは、以下の3つのセッションを用意しました。
(1)【最新レポート】
「離職防止だけでは解決しない、仕事と介護の両立の現実」〜エイジングリテラシーの重要性〜
ゲスト:石原直子氏(株式会社リクルート リクルートワークス研究所 人事研究センター長 Works編集長)
講演者:佐々木裕子(弊社 代表取締役社長 CEO/株式会社チェンジウェーブ代表取締役社長 CEO)
(2)【基調講演】
「超高齢社会を見据えた在宅医療・遠隔医療・健康管理の将来」
講演者:武藤真祐先生(医療法人社団鉄祐会理事長/株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長)
(3)【トークセッション】
「企業人事に今、何ができるか」
登壇者:石原直子氏、武藤真祐先生、弊社 佐々木裕子
本記事では、1つ目のセッションをダイジェストでご紹介します。
【最新レポート】「離職防止だけでは解決しない、仕事と介護の両立の現実」
〜エイジングリテラシーの重要性〜
最初のセッションは【最新レポート】と題して、弊社代表取締役社長CEOの佐々木裕子が最新の分析データを紹介しながら、企業人における「仕事と介護の両立」についてレポートしました。ゲストに、株式会社リクルート リクルートワークス研究所の機関誌「Works」石原直子編集長をお迎えしました。2人の対談を通して、企業の従業員と人事部門にとって「エイジングリテラシー」がいかに重要かがハッキリと見えてきました。
佐々木:本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。少しでもお役に立つような情報をお届けできればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
●目前に迫る介護に対し、ほとんどの人が準備できていない
佐々木:昨年7月に「大介護時代にどのようなことが起きるのか」というテーマで第1回のセミナーを開催した時に、企業の従業員の方、約2500人に調査をしたところ約4分の1が3年以内に介護をする可能性があるという結果が出ました。しかも、その準備はできていないという実態が見えてまいりました。
これだけ差し迫っているのに、なぜ準備が進まないのかということが最大の課題であると考え、今回新しく調査した結果をご紹介したいと思います。ここではリクルートWorksの編集長で最新号で『介護と人事』をテーマに特集を組まれた石原直子さんをお迎えして一緒にレポートさせていただきたいと思っています。石原さん、よろしくお願いします。Worksの最新号で『介護と人事』というタイトルで特集を組まれています。Worksで介護についてのタイトルを初めて拝見した気がするのですが?
石原:Worksは今年の4月で創刊25周年になります。その中で企業人事の方が直面するテーマでいろいろ特集を組んできましたが、介護のテーマは今回が初めてです。介護の話は数年前からあったんですよね。ですが、私ここ5年間編集長を務めているんですけれども、私に介護に関する情報がまったくなかったのと、研究所全体も年齢層が若かったんですね。そうすると介護のリアリティがまったくない中で語れるんだろうかという不安もあって、ずっとできなかったというのと、もう一つは介護の問題って、世の中的には人事の問題にまだなっていなかったと思うんです。そのあたりがあって、しばらく先送りにしてきたという経緯があります。
弊社 佐々木裕子(左)と株式会社リクルート リクルートワークス研究所 人事研究センター長 Works編集長 主幹研究員、石原直子氏(右)。
●リクルート「Works」誌で、初の介護特集
佐々木:ではなぜ今年だったのですか? 満を持してというか。
石原:はい、ワークライフバランスの話とか子育て支援の話は2010年代には当たり前になってきて、介護の話もいろいろな研究会のテーマに上がってきていますし、研究も増えてきているんですけれども、介護の話ってみんな辛いんだけれども意外に会社には言ってないということがすごくある。でも、企業はそれこそ誰にもやめて欲しくないんですね。介護を理由に突然やめられるのを放置しておく理由がない。そういうところまで来ているなと思いました。直接的には昨年7月のセミナーに参加させていただいたことが大きかったんですね。知らないことがいっぱいあって、みんなそういう風に考えるんだとか、逆に、そうやってやったらできるんだという気づきがものすごくありました。なので、この話はどこかでやらないといけないと、その時強く思ったんですよね。
佐々木:その半年後に出していただけたということで、ありがとうございます。
2019年12月10日発行のworksでは「介護と人事」を特集に組んだ。人事をテーマとするworksとしては初めての介護特集となる。
画像をクリックでPDF閲覧ページから全文お読みいただけます。
●「エイジングリテラシー」がないと、人生の選択を誤る
佐々木:これだけ表面化しない介護に関してはデータが必要だろうと、今回さらに集めてみました。特に私自身もこれだけ情報や知識を持たずに介護に突入される方が多い中で、もし情報があったらどれくらい負担が下がったのか? また、どういう情報があれば負担が下がるのか? に関心があり、必要なリテラシーとは何か定義できないかと思い調べてきました。
私どもの仮説は、超高齢社会になり、それをケアすることが当たり前の時代にそれがないと人生の選択を間違えるというような知識・情報を「エイジングリテラシー」と定義すると、エイジングリテラシーの不足が仕事と介護を両立させている従業員の介護だけではなく、仕事のパフォーマンスにも影響するというものです。今回それを検証するようなデータが出てきました。
●定義
「エイジングリテラシー」とは?
=「超高齢社会」における人生の選択を左右するクリティカルな情報・知識
●仮説
「エイジングリテラシーの不足が(仕事と介護を)両立させている従業員の介護だけでなく、仕事のパフォーマンスも下げている」
まず、わかったことが、介護が切迫しているほとんどの方が知識・情報不足に陥っていることです(下の図)。たとえば、私どもが昨年2500名の方を調べた結果によると、「いつ要介護申請をすべきか判断できる」と答えられた人はほとんどおらず、80%が「いいえ」と答えています。これは要介護申請という公的支援が得られるタイミングがわからず、支援を受けないままに自力でやってしまうリスクを抱えているということになります。また「相談できる介護のプロと繋がっている」人もやはり少なく78%が「いいえ」です。さらに、介護対象になることが多い親御さんがどういう介護を望んでいるかご存じない方がほとんどでした。これは、実は介護の負担を下げるためにはすごく大事なこととされています。
●「要介護申請」のタイミングがわからない
佐々木:ちなみに、ここで皆さんのリテラシーがどのくらいあるかを石原さんと皆さんと一緒にやってみたいと思います。先ほど介護保険を活用するためには要介護申請がいるという話をしましたが、実際にどういうタイミングで手続きをした方がよいのかという質問です(ここで、下記の質問についてそれぞれについて挙手してもらいました)。
●どういうタイミングで要介護申請の手続きをした方がいいか?
・脳梗塞で寝たきりになった
・同じことを何度も繰り返して聞くようになった
・病気ではないのに日中の寝込が増えた
・転びやすくなり先月も2回転んだ
・耳が遠くなった
・常に足腰が痛いと言っている
・3か月前心臓発作で倒れ今は支障なし
・配偶者が亡くなり毎日の食事がままならなくなった
佐々木:はい、ありがとうございます。専門家によればオレンジ色のものは申請した方がよいもので、グレーのものはこのままだと申請する必要がないものです(下の図)。実際の正答率がどれくらいだったかも示します。申請のタイミングについてリテラシーを持っている方は会場でもかなり少なかったと思いますが、実際の従業員の方でもやはり少ない。厚生労働省で介護予防が大事だと言われている一番の本丸はこのあたりにあります。つまり初期の段階でなるべく介入することが重篤化を防ぐということなんですね。
●リテラシーがあれば、突然の親の介護にも慌てない
佐々木:実際に私の母は転びやすくなって、要介護申請をして要支援2となりました。何が大事かというと、高齢になると骨がもろくなり転んで大腿骨骨折とかをしてしまうとものすごく介護度が高くなるということです。それを回避するための対策が必要になります。
石原:要介護の5段階の前に要支援があるんですよね。要支援は要介護にならないように支援する、つまり重篤化していくのを何とか防ぎ、遅らせるということですね。それがわかっていないから申請できないし、まだ1人で頑張れるとなる。そうするうちに転んで骨折し寝たきりになって一気に介護度が上がる。要支援の時からちょいちょい支援してもらうことがすごく大事ですね。
佐々木:はい。それが結構大事だということは、専門家からも相当言われていることです。ここで私どもで作った動画をご覧いただきます。介護の問題はとても重いので少しエンタメ風に作っています。かぐや姫が月に帰って10年後にこんなことが起きたというシミュレーションです。一人暮らしの翁が竹取りに出かける途中で転倒して自力では歩けない状態になり、帝から月に連絡が入り、かぐや姫が急ぎ帰省することになりました。かぐや姫は月で仕事があり、翁が安心して生活できるようになるまでの期間と、かぐや姫が仕事を休む日数はほぼイコールになります。リテラシーがあった場合となかった場合でどれくらいの差があるかというシミュレーションです。
●翁とかぐや姫の状況(まとめ)
・どうやら自力で立つことすら辛そうな状況
・病院で見せたところ脚の骨にひびが入り全治一カ月の診断
・骨折はしていない
・翁は1人暮らし
・かぐやは月の総合商社に勤めている
リテラシーがあった場合には1〜4日で済むのに対してリテラシーがなかった場合は40日、もしくはそれ以降も必要になる可能性があります。
●介護のプロに頼れる仕組み
佐々木:どうしてそういう差が出るのかを、弊社の専門家と一緒に実際に再現をしてみました。
まったくリテラシーがない場合、要介護申請できないと思ってしまい、自宅で看護をすることになります。かぐや姫は翁が治るまで仕事を休んで支えることになります。ここには介護のプロは入ってきませんので、ひょっとすると悪化するかもしれません。40日たつとまったく起こせず筋肉が衰えてしまうこともある。骨折が治っても1人で生活ができない状況が続くリスクがあります。
次に、中途半端にリテラシーがある場合は、自分で介護申請をしようとします。ところが親の介護保険証がどこにしまってあるかわからない。その場合、再発行をしないと介護申請できない。これに1週間ほどかかりますし、かかりつけ医の署名にも時間がかかる。けっきょく約40日くらいかかってしまう。
最後に、ものすごくリテラシーがあると、ぐっと短縮できます。なぜかというと、この場合、プロに頼めることを知っているからです。地域包括センターに行き、ケアマネージャーさんに申請の代行を頼める。ものすごく急いでいれば申請書類が全部整わなくても見切りで手配を始められることもある。そうなると短期間でケアプランができ、ケアプランに対して認定を待たずにヘルパーの手配もできることになります。この結果、かぐや姫は早くて2日、3日後に月に帰れます。あとは、認定調査の時はいた方がいいのでその日は帰ってきてくださいねと言われるくらいです。
ちなみに私はリクシスにプロがいますので、いろいろ頼むことで1日も休まずに申請できました。
●介護は離職を招くだけでなく、仕事のパフォーマンスにも悪影響
佐々木:実際に、エイジングリテラシーの有無がどれくらい仕事に影響するかを、従業員数500名以上の企業で既に介護と仕事を両立させている160人の方に伺いました。その結果、実に76%の方が「両立は難しい」と感じられています(常に難しいが37%、時々難しいが39%)。
介護頻度が低くなるとこの比率は下がるかと思ったのですが、そうでもない。79%の方が仕事上に変化を感じると答えています。さらに、どんな変化を感じたかを調べたところ、
・仕事に費やせる時間が減った(43%)
・関わる仕事や業務の選択肢が狭まった(43%)
・職場や同僚へ迷惑をかけることが増えた(35%)
・仕事への集中力や生産性が下がった(28%)
という結果が出ています。介護と仕事の話というと、どうしても離職防止の話になりがちですが、仕事の質にも大きな影響があります。
石原:アブセンティーズムだけじゃなくてプレゼンティーズムですね。職場にはいるけれども仕事に集中できないとか心に引っかかるところがあって、仕事に邁進できない状態。プレゼンティーズムが発生していると今度は本人の体調にも影響してきますね。
佐々木:まさに、そうですね。皆さんのご想像の通り、介護する前と比較すると、両立している大半の人の仕事に確実に影響が出ていると言えます。
●介護と仕事を両立している人も、知らないことが多い
佐々木:介護と仕事を両立されている方たちに、私どもの開発したLCATのラーニングを受講していただいて、どのくらい知らないことがあったかを調べてみました。この結果、驚くことに、ほとんどの方が知らないことがあったと回答されていました。普通は介護が始まるとケアマネージャーさんも付きますし、いろいろな知識がどんどん蓄積されていくのですけれども、リテラシーを上げていくことの難しさを痛感したデータでした。
さらに、知っていたら負担は下がったと思いますかと聞いてみたところ、あくまで主観的なデータだとは思いますが、8割の方(83%)が「下がった」と答えていました。
●「もし早く知っていればどんな負担が下がっていたと思うか」という問いに対する解答
・自分含め家族の物理的な負担が減ったと思う(46%)
・自分含め家族の精神的な負担が減ったと思う(43%)
・介護される人の生活の質が上がったと思う(35%)
・金銭的な負担が下がったと思う(25%)
・介護される人の要介護度が下がったと思う(8%)
仕事への影響についても具体的に聞いてみました。仕事に対して間接的にリテラシーがどれくらい影響するのかという調査なんですけれども、やはり7割くらいは(68%)、「知っていれば仕事への影響を軽減できた」という回答でした。
「もっと早く知っていればよかった」と感じている人の割合は、なんと8割以上(84%)に達しました。
●リテラシー向上には相当の「おせっかい」が必要
佐々木:この結果をどう思われますか?石原さん。
石原:もっと早く知っていればよかったというのは結構切実だと思います。やはり、親の介護度が進んでしまうと辛いじゃないですか。知っていれば予防できたかもとか、もっと元気だったかもと思ったりすると、やはり知識がなかったことに対する後悔はすごいものがあると思います。
佐々木:当然、企業の方もわかっていらしゃるのでハンドブックを作ったり、介護研修とかを開催されていると思いますが、従業員の方はハンドブックを読んだことがないとか研修に参加されたことがないという方が結構多くて、これは論理的に考えたからではなく、忌避感みたいなもの、あとは忙しいからとか、そういうことで優先順位が下がってしまっています。
石原:まさに優先順位が下がっているんですよね。介護の問題は直面するまで自分の問題じゃないと思いたいという、忌避感があって、優先順位が下がっている。介護セミナーに行こうと思っていても、仕事忙しくなったから今日は止めとくみたいな感じになる。
佐々木:だから、相当おせっかいしないとこのリテラシーは上がらないんだなと思っています。
石原:そうですね。おせっかいがすごく大事な気がしますね。
佐々木:本日は、エイジングリテラシーはめちゃくちゃ大事なんじゃないかという思いをあらためて強くしました。この話については、次にご講演いただく武藤先生と、石原さんとトークセッションでディスカッションさせていただきたいと思います。
【イベントレポート②】「超高齢社会を見据えた在宅医療・遠隔医療・健康管理の将来」はこちらからお読みいただけます。
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