<イベント報告> Excellent Care Company Conference 2023「ビジネスケアラー」ってご存じですか?「ビジネスケアラー」を語ろう!⼤会議
概要
「Excellent Care Company Lab.(以下、ECC Lab.)」は、超高齢社会の課題を解決するための施策を議論・推進する業界横断型コンソーシアムです。2021年6月に設立し、2023年10月現在、13の企業・団体で運営しています。
2023年11月10日、ECC Lab.参加企業・団体、経済産業省が集結し、ダイバーシティ推進や健康経営をご担当されている企業⼈事、経営者層などを対象としたカンファレンスを開催しました。
経済産業省担当課⻑補佐水口怜⻫氏をお招きし、「ビジネスケアラー問題の現状と未来」についてお話しいただき、トークセッションを挟んで成果発表会へ。2期目となる今年は、ECC Lab.の参画企業11社の人事担当者が3つの分科会を構成し、「3つの変革」という観点から議論を重ね、成果を発表しました。
<オープニング>
取り組んだのは「知らない」「言えない」「理解されない」を解消するための新しい常識づくり
冒頭、ECC Lab.発起⼈で事務局である株式会社リクシスの佐々⽊裕⼦から、ECC Lab.についての説明やビジネスケアラーの現状についてお伝えし、カンファレンスがスタートしました。
佐々木「働きながら介護をする人たちが、仕事を諦めて介護をするのではなく、当たり前に両立させられる社会をどう作っていくのかーー。企業の有志の皆様にお集まりいただき、ディスカッションを続けてきたというのがECC Lab.の活動です。
介護についての情報を「知らない」、介護をしていることを周囲に「言えない」、介護にかかる負担や悩みが「理解されない」という3つの大きな課題を解決するために、ECC Lab.は、3つの分科会を設置して取り組みました」
<トークセッション1>
経産省では企業が介護と仕事の両立に前向きに取り組むためのガイドラインを作成中
続いて、経済産業省ヘルスケア産業課 課⻑補佐 ⽔⼝怜⻫氏に登壇していただき、「なぜ今、ビジネスケアラーについて国、企業、社会が語りあうべきなのか」を議題に、佐々木とトークセッションを行いました。
水口氏「企業側の取り組みを促進させる上で健康経営との連動させており、評価項目に今年度初めて『両立』という言葉を組み込みました。介護だけではなく育児も含めた両立のための情報提供をしていけたらと考えています。企業に対しては、経営者に向けた情報提供が足りていないという認識をし、企業経営と介護両立支援のための検討会 を立ち上げています。年度末にはガイドラインが提示できる見込みです。
さらに、離職を防ぐことと両立を支援することについて、両面から取り組む必要があります。企業が、今やっている育児支援など、既存の取り組みの中に介護の要素を入れていく。介護を排除しないということ。介護発生によるリスクだけに目を向けるのではなく、プラスの影響に目を向け、前向きに取り組めるような、きっかけづくりをしていきたいと考えています」
水口氏には会場やオンライン参加者からの質問にもお答えいただきました。
<トークセッション2>
介護は企業横断でやっていく課題。分科会を通じて具体的な解決策を提案
続いて、ECC Lab.に参画されている⼩国⼠朗氏(⼩国⼠朗事務所)、⼤嶋寧⼦氏(リクルートワークス研究所)と佐々木で、ECC Lab.の第2期の活動内容についての振り返りを行い、第2期で開催された3つの分科会の各座⻑の発表へと移りました。
大嶋氏「我々の第1分科会は『情報をどう届けるか』にフォーカスしました。誰にいつ何が起きるかわからず、普段自分事に感じる機会がないということをどう変えていくかについて、頻繁に集まって膝を付き合わせて議論をしました。お互いの持っている知見や経験を重ね合わせることで全体の視界のレベルが上がっていく。これは、1つの企業の中で色々な知見を集め、企業横断でやっていく課題なのだという大きな気づきがありました」
⼩国氏「僕のように(介護と仕事の両立に関して)感度の低い人間の方がまだマジョリティであると思います。だから、僕のような人間が『何それ面白そう』『やらなくては』と思うようになれば、国も企業も変わるのではないでしょうか。3つの分科会で真剣にディスカッションをし、具体的なアイディアを考え、アクションを起こしていったということが2年目のポイントだと思います。
<成果発表>
第1分科会発表
キャッチーな言葉を使った前向きなポスターやバナーで、情報へのアクセス数が増加
第1分科会
前提を変えよう。「他人ゴト」から「ジブンゴト」へ
―その時では手遅れだから、「すべての人」に、「今」こそ知ってもらう工夫
発表者:座⻑ 株式会社三井住友フィナンシャルグループ⼈事部ダイバーシティ推進室 室⻑ 河渕千紗氏
第1分科会は、将来の介護と仕事の両立負担軽減を自分事として捉えてもらうためにどのような情報発信が必要か、現状の各企業施策とその効果から埋めるべきギャップは何なのか、企業が取るべきアクションは何か、について議論を進めてきました。
参加企業はすでにさまざまな制度や施策を実施して取り組んでいるものの、従業員の9割が介護への不安を感じていることもわかりました。参加企業の共通の課題として「情報が届いていない」ことが明確になり、キャッチーな言葉を使った前向きなイメージのポスターやバナーを制作し、情報へのアクセスを増やすという実証実験を行いました。
参加企業の住友商事は社内イントラネットでバナーを使用。結果、介護診断ツールLCATの受講者数は2、3日で約140名増加。今回のカンファレンスの参加者は通常のセミナーと比較して4倍のビュー数になり、短期で明確な効果が得られました。
第2分科会発表
企業と本人が将来に展望を持てるよう3つのツールを活用し、ポジティブスパイラルを醸成
第2分科会
「思い込みによるすれ違い」から「対話によるキャリアと介護のありたい姿の共有」へ
―介護フェーズを踏まえた対話で、やりがいあるキャリアと両立の実現
発表者:座⻑ 中外製薬株式会社⼈事部ダイバーシティ推進室 室⻑ 佐藤華英⼦氏
第2分科会では、「心理的安全性が担保された状態で働き続けられる将来の展望を持ちながら働ける状態をどう生み出すのか」について議論を重ねました。介護によって「これまで通りのクオリティが出せない」「チャレンジする機会がもらえない」という状況に陥り、その結果、やりがいを喪失してしまう。それは同時に会社にとっても生産性の低下につながり、ネガティブスパイラルを生み出してしまいます。
「やりがいを持ったビジネスケアラー」になっていくためには、介護を一括りで考えず、段階があり、働き方もそれに合わせて変えていけることが望ましく、まず、本人も周囲も「介護」に対する思い込みを払拭する必要があると考え、3つのツールを作成しました。
介護にはステップがあることを理解する「仕事と介護の両立視界MAP」、やりがいを保つための「今の気持ちに向き合う5か条」、上長と部下が段階ごとに思いを擦り合わせられる「仕事と介護の両立面談シート」。このツールを使うことで、ポジティブスパイラルが生まれることを期待しています。
第3分科会発表
ビジネスケアラーのパーツモデルになるロールストーリーを作成し、個々の課題解決の道しるべに
第3分科会
「個⼈の課題」から「OTAGAISAMA」へ
―これからの新常識をつくる「ロールストーリー」他
発表者:座⻑ ハウス⾷品グループ本社株式会社 ダイバーシティ推進部 加藤淳⼦氏
第3分科会では、介護の問題を「お互い様」として捉え、関心がある人を1人でも多く増やせないかと考えました。多様性の深い理解の元で心から「お互い様だよね」と言える世界を目指すとき、まず払拭しなくてはならないのが、「介護は大変」「介護を抱えるのは制約社員」「介護は家族・女性がするもの」「施設はかわいそう」というような介護に対する思い込みです。
この思い込みを払拭するための仕掛けとして考案したのが、ロールストーリーです。ビジネスケアラーの家庭や職場の環境や条件はそれぞれ異なるため、ロールモデルを見つけることは困難ですが、さまざまな人の体験やエピソードを物語としてまとめることで、ビジネスケアラーが抱える課題や解決するための道筋やプロセスが見えてくるのではと考えました。
今回は参加企業の中から実体験を募り物語を作りました。突然介護が始まった人に起きる制約や心身の負担を物語にし、展開される上長や人事とのやりとりを通じて、介護の現実はもちろん、「やりがいを持つビジネスケアラー」になるために必要なステップを擬似体験することができます。体験を提供したマネージャーからは、「部下のサポートをしながら、実は自身の介護の準備にもなっていて、まさにお互い様だった」という声が聞かれました。
<質疑応答・ディスカッション>
「新常識」の浸透に向けて気持ちを新たに。参加者からの質問を元にディスカッション
発表後は、3つの分科会のそれぞれの試みに対して、会場やオンライン参加者から質問が投げられ、発表者らが回答しながら、ディスカッションを行いました。
株式会社三井住友銀行 林氏(第2分科会メンバー)「毎日生きている中に働くことがあり、その時々の条件、育児や自身の病気、介護、全ては生きていること、働くことの中に含まれている。だからこそ、自分の中でバランスを取ってやっていく必要がありますが、個人で抱え込むのではなく、社会全体で、国も本気になって取り組むべきだと思います」
経済産業省 水口氏「この問題は早め早めにやっていかないといけない課題だと思います。世界に先駆けて日本が取り組んでいけいかなきゃいけない。逆に言うと、そこで解が見つかれば、世界中の人にとっても、若い人にとっても希望が見えるのではないかと思いますので、ぜひまた皆さんと一緒に考えられたら嬉しいです」
と、最後に未来を見据えたコメントも多数あり、盛況のうちに閉会しました。
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