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リクシスが事務局を務めるExcellent Care Company Lab.では、2023年8月9日、『企業の【ビジネスケアラー施策】は健康経営でどう評価されるのか』をテーマにオンラインセミナーを開催しました。
セミナーでは、医療・福祉・健康分野を横断したヘルスケア産業の振興(介護政策・国際展開・スタートアップ支援)を担当していらっしゃる経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 課長補佐の水口怜斉様より、ビジネスケアラー増大について国がどのような問題意識を持っているのか、そして健康経営度調査に関する評価方針について詳しく解説していただきました。
(本セミナーのアーカイブ配信視聴及び水口様のセミナー資料ダウンロードのお申し込みリンクは、本記事の一番下でご紹介しております。)
「仕事と介護の両立」推進が政府の骨太の方針にも明記
【佐々木】今回のテーマになっているビジネスケアラー支援は、国としても政策に掲げている問題のひとつです。その背景について、まずは皆様と一緒に振り返ってまいりたいと思います。
人口のボリュームゾーンである団塊の世代が後期高齢者に入ることで、80代人口が1番伸びるという人口構造になっていく「2025年問題」。それに加えて少子化によって生産年齢人口は減っていくため、ほとんどの働き手が介護に直面するという時代が目前に迫ってきています。
ビジネスケアラー増大による「仕事と介護の両立」の推進は今回の政府の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)にも明記されました。
この政策についてリードしていらっしゃるのが、経済産業省のヘルスケア産業課であり、まさに水口様が担当なさっている分野と伺っております。認知症対策だけでなく、ビジネスケアラー施策、それを支える保険外サービス促進についてもすでに事業を開始されているとのこと。
国がどのような問題意識でビジネスケアラー政策を設計されているのか、また、今年の健康経営評価からは、企業によるビジネスケアラー支援施策も評価対象になると伺っておりますので、具体的にはどのように評価されるのかについても、お話いただきたいと思っています。
よろしくお願いします。
企業のビジネスケアラー施策は健康経営でどう評価されるのか
-健康経営度調査に込めた政策 意図と評価方針解説-
講演者:水口怜斉様(経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 課長補佐)
【水口様】今回私からは「経済産業省における介護に関する取組」と「今年度の健康経営の方向性について」の2本立てでお話しします。
仕事と介護の両立の経済的インパクト、2030年には約9兆円の経済損失の見込み
介護の問題においては、老々介護(高齢の夫婦が片方の配偶者の介護を担っている状態)やヤングケアラーなど様々な切り口があると認識しています。そのひとつであるビジネスケアラーの問題も、非常に重要な問題です。
最新の統計によると、介護離職者は10万人強。2030年には離職者に加えて家族介護者の4割がビジネスケアラーになる見込みだと言われています。
実際に介護関連においてどのような経済損失があるのか、2030年時点での損失の推計をしていますが、だいたい9兆円と大きな数値が見込まれています。
その内訳が象徴的だと思っていますが、離職者による損失は約1兆円ほど、残り8兆円は「仕事をしながら介護をする」ことによってどうしても仕事の生産性が落ちてしまうことによるものです。
なぜ経済産業省が介護の課題に取り組んでいるかというと、企業での人材確保に正面から突きつけられる課題だと認識しているからです。
日本全体で生産年齢人口が落ちていく事態にどう対処していくか、そこへの対応が我々に求められていると考えています。
なお、参考までにご共有すると、介護発生前後では約3割ほどのパフォーマンス(仕事の質)低下があるという回答結果も出ています。
経済産業省が考えるビジネスケアラー問題の背景
介護政策をめぐっては、主に下記の3つの観点で課題を抱えている状況です。
①財政
②経済(労働力)
③介護人材
ビジネスケアラーの問題は②の経済(労働力)に位置します。経済産業省としては、対応するための政策として下記の2軸で方向性を示しています。
1.介護需要の新たな受け皿整備(介護保険外サービスの振興)
2.企業における両立支援に向けた取組の促進
それぞれ背景をお伝えしていきます。
介護需要の新たな受け皿整備(介護保険外サービスの振興)について
介護保険適応外のサービスとして、アクティブシニアの方々に向けてのサービスや、身体的な介護が必要な方に向けてのサービスなど、いろんなジャンルのサービスがあると認識しています。
特に、図の中心にある「日常生活支援」は、ご家族の負担も大きいのではないかと考えています。これについては、介護保険の枠組みだけではなく、さまざまなサービスで支えていくことが重要です。
家族介護者で介護保険外サービスを利用したいと思っている方は半数以上いる状況です。市場創造に当たっては、その潜在需要をどう掘り起こすかが重要だと考えています。
しかし、介護保険外サービスには以下のような課題があります。
・開発面(高齢者のニーズを捉えたサービス開発ができている事例が限られている)
・情報面(当事者やその家族に対して、十分にサービスの情報が行き届いていない)
・信頼面(サービスの品質やその情報提供主体の信頼性が十分に担保されない)
・費用面(介護保険サービスに比して、高価格であり、利用者が限定される)
それぞれに、下記のような方向性で政策を打っていく必要があると考えています。
・高齢者のニーズに対応しながらサービス開発ができる環境整備やモデルケースの創出
・地域(自治体、ケアマネージャー等)や職域(人事部、福利厚生代行事業者等)における情報流通の促進
・複数の振興施策を通じて、事業者の市場参画を促進することで、価格の適正化を図る
企業における両立支援に向けた取組の促進
2022年にとったアンケート結果で、ビジネスケアラーの4割程度が「仕事と介護の両立をするにあたって勤務先からの支援が必要(現在はほとんどない)」と思っていることが分かりました。
対して企業側は、両立支援の基礎とも言える従業員の介護の実態把握に取り組めていない状況のようです。
また、従業員の方に、両立が難しいと思う理由は何かについてもアンケートをとりました。
もっとも多かったのは「勤務先に両立支援制度が整備されていない」という声です。次いで、こちらはパーソナルな面ですが「家族・親族の理解・協力が十分に得られない」という声が多かったです。
企業の方々にどういった取組をしているのかもアンケートをとりましたが、セミナーを開催したり、社内の専門窓口を設置したりしている企業が1割ほどで、そもそも両立支援に自主的に取り組めていない状況でした。この件については、国側でのサポートが必要ではないかと考えています。
一方、従業員に対して、企業で長期的に働き続けるため、どのような支援を企業に求めるかを聞いたところ、「働き方の柔軟性」を求める声が多く、「介護に関する研修の実施」についてはあまり求められていないようでした。従業員の方々も、介護のリテラシーを高める必要性については十分に認知できているわけではないという結果ではないかと考えています。
なお、働き方や支援制度の提供状況についてですが、多くの企業で短時間勤務やテレワークなどを実施しています。しかし、フレックスタイム制度や時間単位での有給取得はまだまだ実施されていない状況でした。業務上、テレワークがしづらく、どうしても現場に出る必要がある企業での支援制度についても、課題だと思っています。
経済産業省におけるビジネスケアラー対策
こういった現状や分析を踏まえつつ、最初にお伝えした下記の2軸で政策を考えています。
1.介護需要の新たな受け皿整備(介護保険外サービスの振興)
2.企業における両立支援に向けた取組の促進
介護需要の新たな受け皿整備としては、介護保険をベースに提供されている中で、プラスアルファとして、民間企業の方が提供する介護保険外サービスをどう使っていただくかということが重要になってくると思っています。
経済産業省としては、下記に取り組んでいます。
・各市町村ごとにある地域ケア会議(高齢者の方のニーズを集約する場)でオプションとして介護保険外サービスをご提示する仕掛けができないか
・企業と連携して信頼性を担保することができないか
皆さんがより関心があるのは2つ目かと思いますが、企業における両立支援に向けた取組の促進も合わせて重要になってくると思っています。
まずは先進企業の取組の可視化を行い、その後今日のテーマにもなっている「健康経営」の評価項目への追加を行います。
最終的には、介護と仕事の両立支援に関する企業向けのガイドラインを整理しようと考えています。並行して「OPEN CARE PROJECT」という取組も行っています。
現場において介護のことは話しづらいという声をお聞きします。世の中で一般的に介護の話題に触れる機会が少ないことも、組織の中で話しづらい要因になっているのではないかと考えています。
そこで、介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ転換する取組を行っています。
2022年には、介護の話題を色んなところで発信するという観点で、介護の当事者の方とメディアやクリエイターの方とのマッチングを行い、いくつかのメディアにも取り上げていただきました。
ぜひこういった趣旨に賛同いただける企業には、ロゴマークを提供させていただき後押ししたいと思っています。そして、業種横断で対話やマッチングの場を設けることで、コミュニティ拡充や業務横断での連携に係る社会機運の醸成を図かれればと思っていますので、ウェブサイトを一度ぜひご覧いただければありがたいです。
OPEN CARE PROJECT(外部のサイトにつながります)
健康経営の概要
健康経営について、詳細まではご存知でない方も多いかと思いますので、改めて制度の概要からご説明できればと思っています。
「健康経営」については、2014年から経済産業省が取り組んでいます。
基本的に、社食を健康なものにしたいとか、フィットネスの費用を負担するなど、企業が従業員の健康への投資をしている取組を認定する仕組みとして、健康経営は立ち上がりました。
大企業と中小企業と大きく2つの部門があり、大企業では「ホワイト500」、中小企業では「ブライト500」として、積極的な取組を行っている上位500法人を認定しています。
更に、これは大手企業の方ですが、東京証券取引所様と共同で、上場企業の中から特に優れた取組をしている企業を「健康経営銘柄」として選定しています。
こちらに取り組む企業はどんどん拡大しています。
健康経営の優良法人の認定を受けるためには「健康経営度調査」にご回答いただく必要があるのですが、2022年の最新データでは、中小企業で約14,000件、大企業で3,000件、合計で17,000件のご回答をいただき、ご応募いただきました。
2022年度は日経平均株価を構成する225社のうち約8割がご回答をいただいている状況です。ご参考までに令和5年3月には49社を「健康銘柄」として選定させていただきました。
令和5年度健康経営度調査について
健康経営度調査は様々な項目があります(約180問ほど)。大きくは4つの項目に分けられます。
①経営理念
②組織体制
③制度施策実行 ※もっとも項目数が大きい
④評価・改善
健康経営に求める内容は時代に応じて変化すると認識していますので、毎年認定制度を改訂しています。今年度はこのようなポイントで改訂を進めています。
◆情報開示の推進
・特定健診・保健指導の実施率の評価(大規模)
・業務パフォーマンス指標の開示(大規模)
・労働安全衛生に関する開示(大規模)
◆社会課題への対応
・仕事と育児・介護の両立支援(大規模・中小規模)
・女性特有の健康課題(大規模・中小規模)
・生産性低下防止のための取組(大規模・中小規模)
・新型コロナウイルス感染症への対応(大規模・中小規模)
◆健康経営の国際展開
・海外従業員への対応(大規模)
◆取組法人の裾野拡大
・中小企業への普及拡大策
「社会課題への対応」にある「仕事と育児・介護の両立支援」を今回改訂のポイントとして含めています。
介護はもちろん育児も合わせて、社会課題にもなっていますし、心身ともに負担があるところですので、健康経営の枠組みの中でも評価していこうという話になっています。
今回初めて「仕事と育児・介護の両立支援に関する設問」を新設いたしました。「適切な働き方の実現を問う設問」と合わせて取り組むことが、認定要件になっています。ただし、中小規模法人では認定要件とはせず、アンケートとして現状を把握し、来年度認定要件とするのかどうかを検討していく予定です。
せっかくの機会なので具体的な項目を確認していきましょう。
まずは大規模法人ですが、アンケートの実施や研修(管理職・従業員ともに)、相談窓口の設置、柔軟な働き方、金銭補助、ニーズや満足度を徴収しているかという項目があります。
把握方法や把握した人数について、実態把握できているかというアンケートをとりたいと考えています。
中小規模法人は少し聞き方をアレンジしていますが、基本的には大規模法人と似たような項目です。
令和5年度は、8月21日から10月中旬くらいまで申請受付を行う予定です。
関心がある方いらっしゃいましたら、「ACTION!健康経営」(外部のサービスに移動します)というポータルサイトより詳細をご確認ください。
ご清聴ありがとうございました。
本セミナーで水口様が投影した資料をダウンロード用にご提供しています。
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2023/8/9 「企業の【ビジネスケアラー施策】は健康経営でどう評価されるのか」セミナー録画視聴お申し込みはこちら
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2023年9月20日(水)13:30-14:30( アーカイブ配信もございます)
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