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【リクシスインタビュー】仕事と介護の両立実現には、トータルパッケージでの支援と管理職のリテラシー向上が不可欠 ―日立製作所様の「仕事と介護の両立支援」―

【リクシスインタビュー】仕事と介護の両立実現には、トータルパッケージでの支援と管理職のリテラシー向上が不可欠 ―日立製作所様の「仕事と介護の両立支援」―

●株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 トータルリワード部 部長 小林由紀子 様
<インタビュアー>弊社 代表取締役CEO 佐々木


■4つの軸のトータルパッケージで、仕事と介護の両立支援を加速

【佐々木】日立製作所様では、2018年から3年間、仕事と介護の両立支援の強化に向けて集中した取り組みをなされたと伺っています。施策が実施された背景を教えていただけますか?

【小林 様】当社では、1990年代からダイバーシティ推進の観点で介護や育児と仕事の両立支援に取り組んでおり、当初は、フレックスタイム制や裁量労働制といった柔軟な勤務制度や、法定を上回る休暇・休職制度など、勤務・休暇制度の拡充を中心とした環境整備を行ってきました。

2010年代に入ると、世の中でも2025年問題(リクシス注:2025年に「団塊世代」の全年代が後期高齢者である75歳以上になること)が指摘されるようになりましたが、当社グループにおいても、労務構成上、近い将来介護に直面する従業員が急激に増えることが推測されたため、改めて仕事と介護の両立支援を経営・事業運営上の重要課題​と位置づけ、2018年から、『仕事と介護の両立実現』・『介護離職の防止』を目的として、会社支援施策の強化・拡充に取り組んできました。

【佐々木】なるほど。その際に、どのような視点で取り組みを進められたのでしょうか? 

【小林 様】当社では、仕事と介護の両立については、「①情報提供、②経済的支援、③働き方改革、④マネジメント改革」の4つを軸に、「トータルパッケージ」として支援をしていく必要があると考えていますが、2018年以前は「③働き方改革」が取組みの中心であり、それ以外については限定的な対応となっていました。

2012年に、初めて『仕事と介護の両立に関する従業員意識・実態調査』を実施し、以降定期的に定点観測を続けていますが、2018年当時で中高齢者層の約6割が「近い将来介護問題に直面するリスク」を認識していながら、うち3~4割の者が国や会社の支援制度について「知らない・わからない」と回答するなど、従業員が知識・情報不足から「介護に関する漠然とした不安」を抱えているということがわかってきました。

また、人財部門としても、これまでの「勤務・休暇制度主体の支援」が、従業員に「介護は会社を休んで、自ら行うもの」という誤った認識を持たせ、結果として介護離職につながってしまうリスクを認識するようになりました。

こうした課題意識を踏まえ、先程申し上げた4つの軸で取組みの考え方と方向性を整理し、介護に直面した従業員が、公的支援と社内制度・施策を最大限に活用し、『仕事と介護の両立を自律的にマネジメントする』ために必要な支援を行うことに軸足を移しました。

【佐々木】取り組みはどのような順序で進められたのでしょうか。

【小林 様】まずは「①情報提供」の強化に取り組みました。具体的には、40歳以上の従業員を対象として、介護に関する基礎知識の付与を目的としたセミナーを実施したほか、家族を含めたリテラシー向上のため、ハンドブックを作成して従業員全員の自宅宛に送付したりしました。加えて、社内に『介護コンシェルジュ』を設置し、当社の両立支援制度・施策を熟知した社外の専門家に、従業員やその家族が無料で何度でも個別相談できる体制を整えました。

また、「②経済的支援」の観点で、従業員本人が負担した介護関連費用を補助する制度の新規導入や、更なる「③働き方改革(働き方の柔軟化)」という観点での在宅・サテライト勤務制度の導入、「④マネジメント改革」のための管理職向けeラーニングやセミナーの実施など、多面的に取組みを進めました。

仕事と介護の両立に向けては、特に従業員に直接相対するピープルマネージャー(管理職)の理解・行動が重要な鍵になると考えており、部長以上を対象としたセミナーでは、リクシスの酒井様に、経営の視点から仕事と介護の両立支援についてご講演いただき、多くの受講者の「腹落ち」に繋がったのは、大変ありがたかったです。

■「介護コンシェルジュ」は本人だけでなく上長にも活用を促す

【佐々木】他社では、「相談窓口はあるのだけれど使われていない」とか、「情報提供しているけれど読まれない」「セミナーも開催するけれど来てくれない」とご相談いただくことがありますが、どのような工夫をされましたか?

【小林 様】継続的かつ多面的に従業員へPRすることが重要だと考えています。例えば、当社の『介護コンシェルジュ』については、2020年10月の導入時以降も、毎年の「働き方改革推進月間」にメールやリーフレットで周知を行うほか、労働組合からも機関誌等で紹介してもらうなど、様々なチャネルや機会を活用しています。直近では、「介護コンシェルジュには、具体的にどんな相談ができるのか、どんなサポートを受けられるのか」といった従業員の声も踏まえて、介護コンシェルジュの活用方法や具体的な相談事例等を紹介するセミナーも実施しました。

介護コンシェルジュは、従業員からの相談にワンストップで対応することが重要だと考えており、ケアマネージャーなど専門的知見を有する介護の専門家に、当社の両立支援制度・施策についても深く理解いただき、従業員の多様な個別事情に応じて、適切なアドバイスやサポートができる体制を整えています。

介護に直面した従業員本人やそのご家族だけでなく、部下から相談を受けた上長への支援という観点からも介護コンシェルジュの活用を促しています。実際に、介護離職を検討していた従業員が上長からの指示で介護コンシェルジュに相談し、仕事と介護の両立実現につながったケースなどもあり、非常に有効であると感じています。

【佐々木】仕事と介護の両立支援が本格化した2018年からこれまでの成果をどのように評価されていますか?

【小林 様】まず「情報提供」については、会社の支援制度に関する従業員認知度が大幅に上昇し、現状では、20~30代の若手社員も含めて8割以上の従業員が認識をしています。また、「経済的支援」として導入した費用補助制度に関しても、利用者数が2018年度比で1.7倍となるなど、徐々に活用度が上がってきている状況です。

「マネジメント改革」についても、「介護事情を抱えた部下への対応方法」をガイドした管理職向けeラーニングを展開し、受講後アンケートでほぼ全員が内容を理解・納得したと回答するなど、高い成果が得られています。前述のリクシス酒井様にご対応いただいたセミナーも大変反響が大きく、管理職層の意識改革が進んだものと考えております。

■多忙な管理職には受講の負担を軽減する工夫を

【佐々木】2022年10月に開催させていただいたリクシスの部長層向けのセミナーですが、忙しい管理職の受講には骨を折られたのではないですか。

【小林 様】ピープルマネジメントを行う管理職が多忙であるというのはその通りです。改めて「仕事と介護の両立支援が、会社経営や組織運営上の重要課題であること」を伝え、対象者全員への直接メールで個別に受講を促したほか、リアルでの聴講だけでなく、動画のアーカイブ配信も行って、受講者の負荷を軽減する工夫をしました。

【佐々木】受講者の反響はいかがでしたでしょうか?

【小林 様】受講後アンケートでの満足度は96%でした。

具体的な感想として、「自身のリテラシーが低いことがわかり、参加してよかったと強く感じた」という気づきの声や、「介護問題は他人事ではなく身近な問題であることを認識した」「部下が介護の問題を抱えている可能性があり、上長としていかにそれを知ることができるかが課題であると思っている」など、仕事と介護の両立支援を受講者が「自分事」として捉えられるようになったことがうかがえる感想も多くありました。

酒井様には「マネージャー層の意識・行動を変える」というセミナーの趣旨・目的に沿って、ご自身の介護経験も踏まえながら、経営的な観点からも仕事と介護の両立がいかに重要かということをお話しいただいたので説得力があり、受講者の「納得」「腹落ち」に繋がったと考えます。

また「仕事と介護の両立支援においては、部下から最初に相談を受ける可能性の高い上長、管理職が大事だ」ということも繰り返しおっしゃっていただきましたので、上長としてリテラシーをあげ、部下の介護問題にしっかり向き合うことの重要性についても、理解が進んだものと思います。

【佐々木】経営層の反応はいかがでしたか?

【小林 様】当社の人事担当役員も酒井様の講演を拝聴させていただきましたが、「とても良い内容だった」「管理職だけでなく、一般従業員にもこういったセミナーを実施しよう」と非常に高評価でした。こうした情報提供は、継続的に行っていくことが重要だと考えていますので、引き続き様々な切り口で実施していく予定です。2023年度は「認知症と介護」をテーマに、従業員の関心が高い「お金の問題」も含めて再度御社の講師にご講演をいただくことにしました。

■トータルリワードの考え方で、必要なお金を必要なときに支援

【佐々木】仕事と介護との両立を考えるときの心配事として、お金の問題はどうしても上位に来ますね。日立製作所様では、介護を抱える従業員への金銭的な補助については、どのような施策を展開されていますか?

【小林 様】当社にはカフェテリアプラン制度がありますが、そのなかで支援ニーズを有する従業員に対して年間10万円相当の特別ポイントを付与し、公的支援ではカバーされない介護サービスの利用料や帰省等のために発生する交通費など、従業員が仕事と介護の両立を実現するためにかかる諸費用を補助しているほか、住宅の改修費や施設入居費など、比較的高額で一時的に発生する費用についても、毎年の特別ポイントとは別枠で30万円相当を限度に支援する仕組みとしています。また、介護休職をした場合の所得低下についても、軽減措置を用意しています。

【佐々木】私たちにも、会社が行う金銭的な補助について、どう考えるべきか、というご相談をいただくのですが、日立製作所様での支援はかなり手厚いですね。この金銭補助についてはどのような位置づけで実施されておられるのでしょうか?

【小林 様】従業員の意識・実態調査では、具体的な支援ニーズについても確認をしていますが、金銭面での支援ニーズは当初それほど逼迫したものではありませんでした。

一方で、当社は「トータルリワード」の観点から、賃金・賞与等狭義の報酬制度だけでなく、福利厚生の充実や従業員の教育・能力開発、キャリア形成支援なども含めて、「総合的な人への投資」を継続的に行っています。仕事と介護の両立支援に関しても、その一環として必要性や優先度を判断し、労働組合とも議論しながら、各種制度・施策として導入・実施していますが、現在の社会環境を踏まえると、公的支援制度だけではカバーしきれない部分の補填や従業員のウェルビーイング向上の観点で、企業が独自の支援を行う必要性はあると考えています。

■ジョブ型人財マネジメントの浸透が介護の両立支援にもつながる

【佐々木】これからの課題、次のステップとして宿題だと思っていらっしゃることはありますか?

【小林 様】仕事と介護の両立を実現するために一番大切なのは、従業員本人と上長が双方向でコミュニケーションをとることだと考えています。本人は自身の状況を上長に伝え、上長は部下個々人の事情や意向を踏まえて、個別支援型のマネジメントを行っていくことが必要です。これは、当社が進めているジョブ型人財マネジメント、 「ジョブ(職務)を起点として、会社と個人が対等なパートナーとしてコミュニケーションをとりながら、会社と個人双方の成長の実現をめざす」という考えにも合致しています。

情報提供や経済的支援、働き方改革など制度・施策の導入は、人財部門が主導してできる取り組みですが、従業員一人ひとりに向き合って実際に課題解決を図るのは直属の上長です。2025年問題など今後の社会環境変化を踏まえると、上長は自分の部下が介護問題に直面する可能性・リスクを予め想定しておく必要がありますし、いざそれが現実のものとなった際は速やかに必要な手が打てるよう、普段から部下の状況把握に努めておくことが求められます。

【佐々木】特に、介護の問題は、従業員側の視点に立つと、カミングアウトしにくく、難しいですね。「介護」ということに対しての様々な先入観や誤解もありますし、「プライベートな話題・課題である」という固定概念も強いです。

【小林 様】そうですね。やはり、上長と部下の間でそうしたことについて会話ができる「信頼関係」が成り立っていることがすべての基本だと思います。

当社では日々の1on1だけでなく、定期的に上長と部下がキャリアについて対話する面談の機会を複数設けています。こういった場をよりシステマティックに活用することで、将来的なリスクの把握や事象発生時の早期対応、仕事と介護の両立に課題を抱える従業員への個別支援につなげていくことができるのではないかと考えています。

業務上のコミュニケーションの延長線上で、本人のキャリアや、キャリアの前提となる個人事情などを上長が把握し、上長と本人の間で良いコミュニケーションが取れていれば、いざというときにお互い慌てずに済みます。介護についての会話が日頃からできるような雰囲気づくり、関係性の構築が必要だと考えています。

■「働きかければ動く」マジョリティーへのアプローチが急務

【佐々木】リクルートワークス研究所の研究で紹介されていた調査結果では、仕事と介護を両立しながら働く「ビジネスケアラー」の中で、会社に対するエンゲージメントが高いスタッフの上長はやっていることが2つありました。

一つは突発的なことがあった時に柔軟に対応してくれること、もう一つは中長期のキャリアについて応援できていることだったんです。

突発的な事態に対する柔軟な対応と中長期のキャリア支援、このどちらも重要だということなんですね。日立製作所様の制度にはこの両方がうまく組み込まれているように思えます。

【小林 様】現時点ですべての管理職が部下と上手くコミュニケーションを取れているわけではないので、どうやって全体のレベルを上げていくかが今後の課題です。

一部には、「人事に言われなくても自律的に動く」マネージャーもいますが、マジョリティーは「言われないと動かない」、逆の見方をすれば「働きかけたら動いてくれる」人達です。この層に対してアプローチすることで、全体をレベルアップさせていく必要があると考えています。

介護の問題を抱えている従業員が、徐々に増えてきているのは間違いありません。

仕事と介護を両立する従業員は今後更に増えることを想定し、各職場、各マネージャーが真剣に対応を考えねばならないタイミングはすぐそこまでやってきています。そのときになって困らないようにするためにも、マネージャー層の意識・行動改革がこの先の最優先課題と認識しています。

【佐々木】システム作りだけでなく雰囲気づくりが必要など、本日は大変貴重なお話をありがとうございました。


◯当社では管理職向け・人事向けなど対象者別の仕事と介護の両立支援セミナーや、介護プロによるテーマ別セミナーなど、リクエストに応じた内容のセミナー研修を行っております。
詳細についてはこちらよりお問い合わせください。

 

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