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●中外製薬株式会社 ダイバーシティ推進室 室長 佐藤 様
<インタビュアー>弊社 代表取締役CEO 佐々木
本格的に超高齢社会に突入する「2025年問題」を目前に控え、企業は今、ビジネスケアラー対策にどう向き合うのか。
今回は、「制度」ではなく「介護リテラシー向上」へ、大きく全社施策の舵を切られた中外製薬様に、その決断の背景と、政策効果を最大化するために講じられた工夫について、詳しくお話を伺いました。
■ダイバーシティ施策が積み上がってきた「今」だからこそ「仕事と介護の両立」に舵を切った
【佐々木】ダイバーシティ推進の中で「仕事と介護の両立支援」については、これまでどのような取り組みをされておられたのでしょうか。歴史的な背景をお伺いできますか?
【佐藤 様】弊社のダイバーシティ推進の取り組みは、歴史を紐解くと2010年のジェンダーダイバーシティのワーキングチームの立ち上げから始まりました。各部門から女性幹部社員の代表者が参画して、何が課題なのか、どうしていけばいいのか議論を重ねたんです。ライフイベントとの両立というテーマもあり、「介護」の話も俎上に載りました。
その後2012年にダイバーシティ推進室が立ち上がり、様々な取り組みが推進室リードのもとで進み始めました。介護についても、まずは従業員の実態把握から始めましたが、当時は介護に携わっている人は6%程度という結果でした。そのことから、中長期的な課題として捉え、まずは介護の制度や仕組みについての情報不足や介護への心構え不足、また仕事やキャリアへの影響の不安払しょくを目的として、2013年から2014年にかけて、介護情報サイトの構築ならびに各事業所での介護セミナーを実施しました。以後の取り組みとしては、セミナー等の啓発活動を少しずつ続けてきた感じです。
【佐々木】なるほど、そうだったんですね。ということは、最初の実態調査から少し間をおいて、この度改めて仕事と介護の両立施策のギアを一段上げられたということですね。きっかけは何だったのでしょうか。
【佐藤 様】そうですね。今も推進中ですが、特にこの10年は「ジェンダーダイバーシティ」の取り組み優先度が高い時期でもありましたし、 “イノベーションの創出”に向けて、多様性の確保だけでなくインクルージョンの重要性を理解浸透させていくことも重視していました。働き方改革もそうですね。介護については環境や仕組み、情報提供などを整えつつも、ダイバーシティ&インクルージョンに関して他にたくさん推進することがあった、というのが実態だったと思います。
一方、今まで以上に多様な人財に、様々な機会やマネジャーとして活躍してもらいたい、となると、その土台ができている必要がある。そう考えると、育児だけでなくいろいろな事情で、仕事にチャレンジできない、マネジャーになれない、続けられないでは困ります。その事情の一つに介護があると思いますし、社員の年齢層を考えても多くの社員が介護に直面する可能性が増えてくる。当然、女性活躍推進としても課題になってきます。
そういったことが積み上がってきたので、最後の調査からは10年近く経ってしまいましたが、「今こそ舵を切るべき時」という判断をしました。
ただ、いざやるとなると、当たり前ですが、ちゃんと予算を取って計画的にやっていかなければ、動かない(笑)。
「よしやるぞ!」というのを前年ぐらいから決めて、情報を集め、部長と話し合いを重ねながら合意を得て、予算化していきました。
■LCAT導入の決め手は、社員からみたときの「一気通貫性」
~「やってよかった」「会社にわかってもらえている」を感じさせる仕掛け~
【佐々木】そういったタイミングで弊社のサービス「LCAT」をご利用いただき、とても光栄だなと思っております。実際に使ってみようと思ったのは、「実態がわかるから」ということが大きかったのでしょうか。
【佐藤 様】1つはおっしゃるとおり「実態を調査したかった」ということですが、御社のサービスを導入した理由はそれ以外にもいくつかあります。
「介護リテラシー向上効果が見込める」ことは、もちろん決め手の1つでした。
介護の施策は個人が抱える状況が様々なので、会社が「制度」としてカバーできることがどうしても限られてしまうと思うんです。休暇やお金の面でのサポートなど、ある一定範囲では可能ですが、限度があることも事実で、一定以上のところは非常に難しくて行き詰まる。
そんな時に御社からお話いただき、“介護リテラシーを介護というイベントが自分に起こる前に持つ”ということは非常に意味があるなと感じました。会社は支援はできても、解決することはできないので、結局は自分で考えて自分で行動する必要がある。そう考えたとき「リテラシー」というのは大事だな、と納得しました。
実はもう1つ大きかったのは、「一気通貫性」です。
社員はみな業務で忙しいので、「アンケートや調査」は負担になりがちです。その点、LCATはアクセスもしやすく、「やらされ感」「面倒」ではなく、「自分に意味あるものだ」「ためになった、良かった」と思ってもらいやすい形を一気通貫して創られている、と感じました。
【佐々木】それは診断があるとか、セミナーでも啓発できるとかそういったところですか?
【佐藤 様】そうですね。うまく流れが作られているな、と思いました。診断があって、自分の現状が見えて、そこからeラーニングという流れですね。そして最後は定期的にメールマガジンでフォローアップされるので、「人事が単発で何かやった」で終わらない。
社員が「介護について継続してサポートを提供して貰えている」と感じてもらえる工夫が一貫してされていて、とてもよかったと思います。
今回はLCATの受講推進をする先鞭としてセミナーもお願いしましたが、これも背中を押す手段として非常に有効だと思いました。
■全従業員の8割以上が受講した鍵は、「マネジャーから導入したこと」
【佐々木】実際導入されるときには、かなり方法論を議論されたと思います。導入するに当たって工夫されたポイントや、振り返って“ここが肝だったな”というところがあればぜひ教えてください。
【佐藤 様】導入前の一番の心配は「(社員たちが)LCATやってくれるの?」というところでした。特に若い層ですね。全社員対象に一気に導入した場合、若い層は「介護」というテーマに関心をもってくれるのか、と。良いサービスであっても、ちゃんとアクセスしてくれないと意味がありません。特に今回は「調査」という目的もあったので、偏った情報にならないようにしたかったですし。
【佐々木】そして、結果的には8割以上の従業員の方がアクセスしてくださいました。素晴らしいことだと思います。御社の中での工夫もあったと思いますが、どんなところが功を奏したと思いますか?
【佐藤 様】やはり、マネジャーに先に導入し、その後部下に展開する、という流れを作ったことだと思っています。マネジャーのアンケートを見ても「部下に勧めます」といった感想も多く寄せられました。
そしてマネジャー導入にあたっては、事前に管理職向けセミナーも実施しました。
このセミナーの評価がとても高かったことも大きいと思います。この研修で、マネジャーたちも関心がぐっと高まったと思います。
【佐々木】ちなみに、受講された管理職の皆さまからは、具体的にどんな反応があったのでしょうか?
【佐藤 様】「部下に対しての声のかけ方を間違ってはダメだな」、「自分は部下から相談を受けたときに間違ったこと言っちゃったかも」というような声が上がっていました。
これまでは“配慮をする”とか“仕事は心配せずにあなたがいいと思うようにやっていいよ”といった声かけやアドバイスしかできていなかったけれど、実はもっとやれることがあったんじゃないか、という気付きを得たマネジャーが多かったようです。
御社のセミナーは、介護といっても、福祉的な意味での介護ではなくて、“仕事との両立”という観点での問いかけが多いですよね、単に介護についての知識を増やすということではなくて、部下の両立体制構築にマイナスの影響を与えないために、マネジャーとして絶対に知っておくべきこと、陥りがちな罠、取るべきアクションを、実践的かつ具体的に教えて頂いたので、マネジャーたちもそれに大きく反応したのだと思います。
■介護相談は想定以上に「予約殺到」
―「この一連の流れに関わっている人なら、相談してみたい」
【佐々木】介護相談デイも設けさせていただきましたが、「話せて本当に良かった」と言ってくださる相談者の方がいたと、担当した介護福祉士の木場(こば)が申しておりました。なかなか相談する相手がいないようで、実施させていただいて良かったと思いました。
【佐藤 様】実は当社には昔から「介護相談窓口」はあるのですが、福利厚生サービスの一環として設置されており、実態が把握しきれていなかったこともありますが、活用されているという声はなかなか聞こえてきませんでした。今回はセミナー、診断、ラーニング等を一気通貫で体験した後なので、社員が、御社の相談担当の皆さんの顔や知見の一端を感じられたのが良かったんだと思います。「この一連の流れに関わっている人たちになら、こんなことを相談してみたい、相談できそうだ」と思ってもらえたのではないかと。御社の介護相談デイは、ほんとに予約殺到だったんですよ。キャンセル待ち状態でした。
【佐々木】たしかに、相談窓口は単発でやると難しいんですよね。今回はおっしゃるとおり「一気通貫」で実施させていただいたので、不安に感じていることや知りたいことがある方の心理ハードルが少しずつ下がったのだと思います。たくさんの方に相談に来ていただけたのは、本当に良かったです。
■思っていた以上に「不安」に思っている社員は多い
【佐々木】他に意外だなと思われたこと、「あ、そうだったのか」という発見などはございましたか?
【佐藤 様】そうですね、想定はしていましたが、思っていた以上に「不安」に思っている従業員が多いことを改めて実感しました。自分にいつ降りかかってくるか分からないけれど、備えも知識もない――。そんな風に漠然とした不安を持つ人たちが多いな、と。
あと、特に相談デイに予約が殺到したことからもわかるように、現在進行形で仕事と介護を両立している人や、差し迫っている人は、このままで大丈夫なのか、情報は足りているのか、判断は間違っていないかを、誰かに聞いてもらいたい、相談に乗ってもらいたいと思っている。このニーズはとても高いという感覚を改めて持ちました。
今年はこのニーズにどうしたらもっと応えられるかも、考えていきたいと思います。
■一番の収穫は、「会社がこのテーマについて考えてくれているという安心感」が生まれたこと
【佐々木】弊社のサービスを利用していただく前と後では、このテーマに関して従業員の方の感度や雰囲気などが変化した感触はありますか?
【佐藤 様】正直まだわからないですが、漏れ伝わってくる声を聴く限り、社内の関心は高まったのではないかと感じます。「会社がこのテーマについて考えてくれているんだという安心感」が社員に生まれたことは、とても良かったと思っています。これからは、1on1等の社内施策とうまく連動させる形も考えたいと思っています。
■これから必要なのは、「継続的なリテラシー向上」と「介護中社員のコミュニティ」
【佐々木】このテーマは、時間軸でいうと小さくなっていくことはなく、大きくなっていく課題だと思いますが、今後やるべきと考えていらっしゃることなど教えていただけますか?
【佐藤 様】まだ分析が終わっていないので、具体的なところはそれを見てから考えたいとは思っていますが、介護リテラシー向上に向けた研修については継続的にやっていきたいと思っています。また、すでに介護中の社員に対して、これから会社として何ができるかも検討したい。
例えば、弊社もコロナを経て働き方の柔軟性は高まってきたと思っていますが、介護に限らずですが、働く場所の問題等まだまだ検討することは多々あると思っています。
また、両立しながら働いている社員同士のコミュニティが必要なのではないか、とも感じています。会社がどれほど関与すべきなのかなど、まだ迷いはありますが、誰かと情報交換したいというニーズがあることはわかりました。1つは専門家に向けての発散(相談)、もう1つは社内でつながりたいというニーズ。これらも継続的に検討していく必要があるなと思っています。
【佐々木】介護家族コミュニティは世の中には存在しますが、お仕事されている方は時間的にも参加できないことが多いんですよね。仕事と介護を両立している方は、「安心して話ができる」だけでも、ほっとしたりするのではないか、と木場が申してました。実際に相談に来られた方も“わかってもらえる人に話せる”ということに満足されていたようです。
私たちも、弊社のサービスの中で、多様な両立コミュニティを作りたいと思っています。
【佐藤 様】その場合、自社内のコミュニティがいいのか、御社のようなサービスを介して他社の同じようなステージの人たちとのコミュニティがいいのか――。
【佐々木】両方あると思います。介護対象者のステージや介護スタイルが同じような方々と共感しながら具体的な話がしたい、という場合には企業横断的なコミュニティのほうがよいかもしれませんし、どんな風に制度活用しているか、どう同僚や上司の理解を得るか、というようなことであれば、社内コミュニティのほうが向いているかもしれません。
【佐藤 様】そうですね。目的に合わせて、ということですね。その辺も御社にぜひご相談させていただければと思います。
【佐々木】ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。今日は非常に具体的な示唆あふれるお話を、本当にどうもありがとうございました。
【佐藤 様】ありがとうございました。
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【講演テーマ/タイトル】
ビジネスケアラー問題対策の最前線 ―「制度」ではなく、「全社リテラシー向上」へ
|中外製薬株式会社 様の先進事例に学ぶ”全社を巻き込む”肝
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